「ソーシャル・セキュリティ:家族が受け取れる年金」で、遺族年金(Survivor Benefits)について触れました。実は、遺族年金はかなり複雑な制度になっています。この記事では、配偶者(離婚した場合、元配偶者)が受け取れる遺族年金について深堀してみます。

遺族年金の支給要件
遺族年金を受け取るためには、亡くなった配偶者との婚姻期間が9か月以上必要です。離婚している場合は、元配偶者との婚姻期間が10年以上です。また、受給者自身が60歳*より前に再婚していないことも条件になります。60歳*以降の再婚は、受給資格に影響ありません。
*障がい者の場合は50歳
そして、残された(元)配偶者が60歳以上(障がい者の場合は50歳以上)であるか、16歳未満の子ども、または22歳未満で障がいを持つにいたった子どもがいると、遺族年金が支給されます。
以下では年齢要件(60歳以上、障がい者の場合は50歳以上)による遺族年金について、詳しく見ていきます。
(16歳未満の子ども、または22歳未満で障がいを持つにいたった子どもがいることによる受給の場合、年齢に関係なく、亡くなった(元)配偶者のPrimary Insurance Amount (PIA)の75%が支給されます。)
老齢年金のように、遺族年金にも標準受給開始年齢(Full Retirement Age、FRA)があります。1961年以前生まれの場合、遺族年金の標準受給開始年齢は、老齢年金の標準受給開始年齢と異なりますので、ご注意ください。1962年以降生まれは、両方とも67歳です。

遺族年金の支給額
まず、$255の一時金(Special Lump-Sum Death Payment)が配偶者または子どもに対して支払われます。
そして、年金の支給額ですが、以下の基本算式になります。

まず基準額ですが、(元)配偶者が亡くなった時にすでに老齢年金を受給していたかどうか、標準受給開始年齢(FRA)の前か後かで変わってきます。以下のフロー・チャートをご覧ください。

遺族年金を受け取る(元)配偶者の受給開始年齢による支給率は、以下の通りです。支給率は年金を請求する年齢で決まり、生涯適用されます。67歳(FRA)以降では、基準額満額の受給になります。一方、67歳(FRA)より前の繰り上げ受給では、所定の減額が適用されます。比較のため、老齢年金、配偶者年金の支給率も記載しておきました。

なお、「寡婦(寡夫)の制限」(Widow(er)'s Limit)と呼ばれる特別なルールがあり、亡くなった配偶者が繰り上げ受給をしていた場合、寡婦(寡夫)の支給額は、亡くなった配偶者の実際の受給額か、PIAの82.5%の高い方が上限となります。PIAの82.5%が上限となる場合でも、亡くなった配偶者(FRA 67歳)が老齢年金を62歳で繰り上げ受給をしていた場合、PIAの70%しか受け取っていなかったことになりますので、この状況においては有益な増額となります。
シンプルなケースで遺族年金額の違いを確認
標準受給開始年齢以降で、夫が老齢年金を受け取り、妻が配偶者年金を受け取っているケースでは、夫が亡くなると、妻は配偶者年金に代わって、夫の老齢年金と同額の遺族年金を受け取ることになります。(ソーシャル・セキュリティは性別に対して中立なので、夫と妻を入れ替えても同じことが言えます。)
例えば、夫が妻より5歳年上で、妻は夫より10歳長生きする(寿命が長い)としますと、妻が遺族年金を受け取る期間は15年にもなります。このことは、より所得実績が高い配偶者の老齢年金を繰り上げ/繰り下げ受給すると、もう一方が受け取るかもしれない遺族年金に大きく影響する可能性を示しています。
次のケースで、金額を確認してみましょう。

徹さんが85歳で亡くなった後の陽子さんの遺族年金は、以下の通りです。徹さんの老齢年金の繰り上げ/繰り下げ受給が、陽子さんの遺族年金に大きな影響を与えることが分かります。

自分の老齢年金と(元)配偶者の遺族年金の受給資格があるケース
自分が標準受給開始年齢になる前に(元)配偶者を亡くし、自分の老齢年金と(元)配偶者の遺族年金の受給資格がある時、少ない方の年金を繰り上げ受給し、多い方の年金を満額(以上)で受給できる時点で請求することが可能です。
さきほどの徹さん、陽子さんの例で見てみましょう。徹さんが65歳で他界したとします。陽子さんは60歳で遺族年金を請求することもできますし、62歳で自分の老齢年金を繰り上げ受給したあと67歳で遺族年金を請求することもできます。それぞれの受給額は、以下になります。

自分の老齢年金、配偶者年金、さらに遺族年金が絡むケース
次に、すでに受給開始している自分の老齢年金、配偶者年金(上乗せ)に、遺族年金が絡むケースを考えてみます。以下の70歳の大輔さん、62歳の真由美さんのケースです。

大輔さんは66歳(1954年生まれの標準受給開始年齢)から月$3,000の老齢年金を受け取っています。
真由美さんは62歳となり、年金を請求することにしました。以下の計算により、$1,025を受給します。
老齢年金:$1,000×62歳の支給率70%=$700
配偶者年金上乗せ額:($3,000×50%-$1,000)×62歳の支給率65%=$325
合計支給額:老齢年金$700+配偶者年金上乗せ額$325=$1,025
そして、大輔さんが72歳で他界したとします。真由美さん(この時点で64歳)は、①すぐに遺族年金を受給する、②67歳まで遺族年金受給開始を待つという、2つの選択肢があります。
計算結果は、以下の通りです。

[ 計算詳細 ]
① すぐに遺族年金を受給する場合
すでに受給開始している老齢年金:$700
遺族年金上乗せ額: 大輔さんの老齢年金額$3,000×64歳の支給率87.8%-老齢年金$700=$1,934
合計支給額:老齢年金$700+遺族年金上乗せ額$1,934=$2,634
② 67歳まで遺族年金受給開始を待つ場合
・64から66歳まで
すでに受給開始している老齢年金:$700
(大輔さんが亡くなったことにより、配偶者年金上乗せ額$325はなくなります)
・67歳以降
すでに受給開始している老齢年金:$700
遺族年金上乗せ額:大輔さんの老齢年金額$3,000-老齢年金$700=$2,300
合計支給額:老齢年金$700+遺族年金上乗せ額$2,300=$3,000
まとめ
遺族年金が関係する3つのケース・スタディを見てみましたが、いかがでしょうか。遺族年金が絡むと、年金請求年齢の選択がとても複雑になりやすいことを感じていただけたかと思います。
なお、ソーシャル・セキュリティと厚生年金を同時に受給することによる棚ぼた防止規定(WEP)の減額は、遺族年金には適用されません。したがって、亡くなった(元)配偶者がWEPによる減額を受けていた場合、遺族年金はその分増額します。一方、遺族年金も所得テストによる減額がありうることをお忘れなく。
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