※2025年1月5日に成立したSocial Security Fairness Act of 2023により、棚ぼた防止規定(WEP)は廃止されることになりました。詳しくは「朗報!ソーシャル・セキュリティの棚ぼた防止規定(WEP)等を廃止する法律が成立」をご覧ください。
ソーシャル・セキュリティと厚生年金を同時に受給すると、棚ぼた防止規定(Windfall Elimination Provision、WEP)により、ソーシャル・セキュリティに所定の減額が適用されます。この仕組みについては、「ソーシャル・セキュリティと厚生年金:棚ぼた防止規定(WEP)」で詳しく説明しました。
今回の記事では、ソーシャル・セキュリティと厚生年金をなるべく同時に受給しないようにすると、月額や生涯受給額がどのように変化するか見てみたいと思います。

ケース設定
大輔さんは日本で勤めている間、厚生年金に加入し、その後アメリカでソーシャル・セキュリティに20年加入したとします(WEP調整パーセンテージ40%)。妻の真由美さんは、厚生年金、ソーシャル・セキュリティの加入期間はありません。
以下のように、年齢や年金額を想定しました。

($1,200は$1=150円換算で、18万円)
そして、ソーシャル・セキュリティ、厚生年金の受給開始年齢に応じて、3つのケースを用意しました。ケース1はソーシャル・セキュリティ、厚生年金ともに標準受給開始年齢、ケース2はソーシャル・セキュリティは標準受給開始年齢、厚生年金を75歳まで最大限繰り下げたケース、ケース3は逆に厚生年金は標準受給開始年齢、ソーシャル・セキュリティを70歳まで最大限繰り下げたケースです。

なお、ソーシャル・セキュリティの繰り下げ受給は年あたり8%、厚生年金の繰り下げ受給は年あたり8.4%、年金月額が生涯にわたって増額します。
年金月額の計算結果
まず大輔さん真由美さん夫婦の年金月額の推移を見てみましょう。
(以下、日本の老齢基礎年金は計算結果に含みません。)

まずケース2(SS67歳、厚年75歳)は厚生年金を繰り下げているので65-66歳の年金月額がゼロに対して、ケース1(SS67歳、厚年65歳)と3(SS70歳、厚年65歳)は厚生年金の$1,200が入ってきます。
その後、ケース3は70歳でソーシャル・セキュリティが始まるまで$1,200のままですが、ケース1と2は67歳でソーシャル・セキュリティが始まり、年金月額はケース1で$3,320、ケース2で$3,000となります。この際、ケース1はソーシャル・セキュリティと厚生年金の同時受給によりWEP減額(夫婦合計で▲$880)が適用され、ケース2を$320(=厚生年金$1,200-WEP減額$880)上回るにとどまっています。
ケース2は、75歳で厚生年金が始まるとWEP減額(同じく▲$880)が適用されますが、厚生年金が増額(10年繰り下げで増額率84%。$2,208)されており、月額$4,328と最も高く、そのリードは真由美さんの(91歳以降の)遺族年金にもつながっています。
受給額累計の計算結果
次に年齢ごとの受給額累計の推移を見てみましょう。

78歳まではケース1が最も受給額累計が多いですが、79歳以降はケース2が最も多くなり、生涯受給額合計は
ケース2(SS67歳、厚年75歳) $1,338,240
ケース3(SS70歳、厚年65歳) $1,196,772(ケース2 に対して▲$141,468)
ケース1(SS67歳、厚年65歳) $1,158,816(ケース2 に対して▲$179,424)
の順番になりました。
78歳を大きく超えた長生きを想定すればするほど、ケース2が有力な選択肢になります。
まとめ
WEPの減額を軽減するために明らかな効果があったのは、厚生年金を最大限繰り下げるケース2でした。特に繰り下げた厚生年金が始まる75歳以降、月額の差は顕著になり、80歳代中盤以降の受給額累計はケース2が他を大きく引き離していきます。
要因としては、ソーシャル・セキュリティは3年しか繰り下げられないのに対して、厚生年金は10年繰り下げられるので、増額率が高くなる、WEP減額が適用されない期間が長くとれることが挙げられます。
WEPの対象になる方のリタイアメント・プランニングにおいては、ソーシャル・セキュリティの受給開始年齢、受給額だけでなく、厚生年金の受給開始年齢、受給額を考慮することも大切です。
当社では、ソーシャル・セキュリティ、厚生年金の様々な受給開始年齢による受給額シミュレーションを活用したリタイアメント・インカム・プランニングを承っております。