アメリカのソーシャル・セキュリティ税制:年金受給者への影響
Updated: May 31
アメリカのソーシャル・セキュリティ制度は、リタイアした多くの人にとって生活の支えとなっています。ソーシャル・セキュリティ給付金のみが収入源である場合、所得税が発生することはまずありません。その一方、所得が高い受給者は、ソーシャル・セキュリティ給付金の最大85%が連邦所得税の課税対象になる可能性があります。このソーシャル・セキュリティに関する連邦所得税の仕組みはかなり複雑です。この記事では、その概要について紹介します。
以下で、連邦所得税の課税対象となるソーシャル・セキュリティの金額算出のプロセスを順を追って見ていきましょう。
ステップ1:コンバインド・インカム(Combined Income)の計算
まず初めに、ソーシャル・セキュリティ給付金が課税の対象となるかどうかは、コンバインド・インカムと呼ばれる指標に基づいています(プロビジョナル・インカムと呼ばれる場合もあります)。このコンバインド・インカムは、受給者のModified Adjusted Gross Income(MAGI)、ソーシャル・セキュリティの1/2、非課税債券(Muni bondなど)の利子収入などを合算して算出されます。
ステップ2:Adjusted Gross Incomeに算入される金額の計算
次にソーシャル・セキュリティ給付金、コンバインド・インカムと二つの基準値を使って、Adjusted Gross Incomeに算入される金額を計算します。
コンバインド・インカムに関する一つ目の基準値は、単身者が25,000ドル、夫婦合算申告で32,000ドルです。二つ目の基準値は、単身者が34,000ドル、夫婦合算申告で44,000ドルです(下のグラフ)。
そして、以下の三種類の数値を計算し、そのうち最も小さい金額が受給者のAdjusted Gross Incomeに算入されます。
ソーシャル・セキュリティ給付金の85%
給付金の50%と、コンバインド・インカムのうち二つ目の基準値を超えた額の85%の合計
コンバインド・インカムのうち、一つ目の基準値を超えた額の50%と、二つ目の基準値を超えた額の35%の合計
ケース・スタディで計算してみましょう。
ある夫婦のMAGI(ソーシャル・セキュリティ以外の所得)$36,000、ソーシャル・セキュリティが$40,000だとします。
すると、コンバインド・インカムは、
$56,000=MAGI $36,000+ソーシャル・セキュリティの1/2 $20,000
となります。
ソーシャル・セキュリティ給付金の85%=$34,000
給付金の50%と、コンバインド・インカムのうち二つ目の基準値を超えた額の85%の合計=$20,000+$10,200=$30,200
コンバインド・インカムのうち、一つ目の基準値を超えた額の50%と、二つ目の基準値を超えた額の35%の合計=$12,000+$4,200=$16,200
したがって、最も小さい$16,200が受給者のAdjusted Gross Incomeに加算される金額となります。この額はソーシャル・セキュリティ給付金の40.5%にすぎず、ソーシャル・セキュリティが他の所得に比べ優遇されていることが分かります。
この例でのAdjusted Gross Incomeは、
MAGI $36,000+ソーシャル・セキュリティのAGI算入額 $16,200=$52,200
になります。
ステップ3:Taxable Income、所得税額の計算
実際に税率をかけあわせて所得税を計算する所得は、Taxable Incomeです。Taxable Incomeは、Adjusted Gross Incomeから各種所得控除を差し引いて計算します。
ここでは、二人とも65歳以上の夫婦合算申告における2024年の標準控除(Standard Deduction)$32,300を使って計算してみましょう。
さきほどの例のTaxable Incomeは、
Adjusted Gross Income $52,200ー標準控除 $32,300=$19,900
になります。
Taxable Incomeが$19,900の場合の所得税率(夫婦合算申告、2024年)は10%ですので、所得税額は$1,990となります。
考慮すべきポイント
所得管理の重要性
ソーシャル・セキュリティ以外の所得がある受給者は、給付金の一部が課税対象になる可能性を認識しておく必要があります。できれば、コンバインド・インカムが2つの基準値のどこに位置し、どの程度がAdjusted Gross Incomeに含まれるか把握しておくといいでしょう。
401(k)やTraditional IRAは73歳からRMDが適用され、毎年一定額以上を引き出す必要があります(必要な引き出し額に満たない部分に25%のペナルティが発生します)。引き出し額はその年の所得に合算され、コンバインド・インカムを引き上げる要因になります。RMDを見越して、リタイア後に所得が低くなる時期があれば401(k)やTraditional IRAから資金を引き出す、またはRoth口座にコンバージョン/ロールオーバーしておくことも有効な場合があります。
まとめ
ソーシャル・セキュリティは、連邦所得税制上、給付金の85%までしか課税対象にならず、他の所得に比べ優遇されています。実際、収入がソーシャル・セキュリティ給付金のみである場合、所得税が発生することは稀です。
しかし、そもそも課税対象になりうることやその仕組みはあまり理解されていないのが実情です。リタイア後も投資や不動産などの収入が見込まれる方、401(k)やTraditional IRAに大きな資産がある方は、所得税の計算方法を理解し、将来の計画に反映させることが肝要です。賢明なフィナンシャル・プランニングを行い、ソーシャル・セキュリティを安心して年金生活を送るための一助としましょう。