「ソーシャル・セキュリティ vs. 厚生年金:どちらが得か」で老齢年金の掛金と給付を試算し、たいていの場合、相対的にソーシャル・セキュリティの給付が手厚いことを説明しました。読者の方には、ソーシャル・セキュリティの支払原資や持続可能性について知りたいと思った方もいるかもしれません。また時折、将来のソーシャル・セキュリティの支払い能力について報道を目にすることもあります。そこで今回の記事では、ソーシャル・セキュリティの財政問題について整理してみましょう。
ソーシャル・セキュリティの財政の仕組み
ソーシャル・セキュリティは、日本の公的年金と同じように、賦課方式(pay as you go)として設計されています。賦課方式というのは、ある時点の現役世代から徴収する掛金を使って、同じ時点の受給者の給付を支払うというものです。今の現役世代が将来受給者になった時、その給付を払うのはその時点の現役世代ということになります。
これと反対の仕組みが積立方式で、現役時代に払った保険料を積み立て、老後にそのお金を受け取る仕組みです。
ソーシャル・セキュリティも日本の公的年金も積立金があるのは、毎年ではなく、超長期で掛金収入と給付支払いを均衡させる考え方を取っているためです。所得に対する掛金率(保険料や税)は頻繁に変更すべきものではないので、安定した固定率を用い、給付を支払った後の掛金収入を将来の支払いのためにとっておくのは、合理的と言えるでしょう。
1980年代初頭の財政危機
1970年代終わりからソーシャル・セキュリティは毎年赤字(掛金収入より給付支払いが多い状態)となりました。そこで、議会は1983年にソーシャル・セキュリティの財政を抜本的に改革する1983 Amendments to the Social Security Actを成立させました。
1983年改革には
ソーシャル・セキュリティ税率の5.4%から6.2%への引き上げ
給付算定方式の引き下げ
標準受給開始年齢(Full Retirement Age)の引き上げ
それまで非課税であったソーシャル・セキュリティを課税対象化
などがありました。
これらの変更は、掛金収入の余剰分を積立金として蓄える意図をもって行われ、その積立金は2020年までもつことが期待されました。積立金はその期待を大きく上回り、今では2034年前後まで存続すると予測されています。積立金が2034年に枯渇するというとセンセーショナルに受け取られがちですが、実は当初計画をよりもかなり成功裏に進展しています。
現在の財政状況
最近でも2018年までは、ソーシャル・セキュリティの掛金収入は給付支払いを毎年上回っていました。余剰による積立金は2022年末で2兆7,119億ドルもあり、安全な米国国債に投資され、利息収入を生んでいます。
2022年の収支は以下の通りでした。407億ドルの積立金取崩しが発生しています。
*OASIはOld-Age and Survivors Insurance(老齢年金と遺族年金)の略
出所:The 2023 Annual Report of The Board of Trustees of The Federal Old-Age and Survivors Insurance and Federal Disability Insurance Trust Funds
ソーシャル・セキュリティの給付が増え続ける要因としては、ベビーブーマー世代のリタイアメント(1日あたり推定約1万人)、平均寿命の伸長(1935年65歳から現在76歳)、少子化があげられます。1970年代までは10人から15人の現役世代に対して1人の受給者だったのに対して、現在は約3人の現役世代に対して1人の受益者というバランスになっています。
出所:The 2023 Annual Report of The Board of Trustees of The Federal Old-Age and Survivors Insurance and Federal Disability Insurance Trust Funds
積立金がなくなると・・・
Social Security Board of Trusteesが毎年レポートを出しますが、2034年前後に積立金が枯渇すると予測されています。積立金がなくなるとどうなるか。ソーシャル・セキュリティのすべてを支払うことはできず、ソーシャル・セキュリティ関連の税金の範囲内、おそらく給付の80%程度の支払いしかできなくなると見積もられています。
とはいえ、パニックになる必要はありません。この問題に対して、90年代終盤以降、数多くの提案がなされてきました。基本的には収入を増やす(増税、課税ベースの引き上げ、積立金の積極運用など)、支出を減らす(受給年齢引き上げ、給付引き下げなど)、その両方に関わるものです。多くの解決方法が考えられていますが、まだ実行に移されたものはありません。おそらく今年の大統領、議会選挙でも争点の一つとなりそうですので、注目しましょう。1983年のように、長期の視野でソーシャル・セキュリティの持続可能性を高める改革が行われることを期待します。
このトピックは、またSocial Security Board of Trusteesのレポートが出た時にアップデートしたいと思います。
最後に、ソーシャル・セキュリティの将来に不確定な要素があったとしても、個々人のソーシャル・セキュリティの請求について最善の判断をすべきであることに変わりはありません。当社では、クライアントの受給資格のある給付金の確認し、様々な受給開始年齢による受給額シミュレーションを行うリタイアメント・インカム・プランニングを承っております。お気軽にお問い合わせください。