Hiroshi Goto
US Frontlineコラム:資産運用はPlan-Do-Check-Actionが大事
(この記事は、2024/8/27付け同タイトルのUS Frontlineコラム「在米日本人のパーソナル・ファイナンス」の転載です。)
Plan-Do-SeeとかPlan-Do-Check-Action(PDCA)という言葉を聞いたことはありますか。PDCAは、Plan(計画)-Do(実行)-Check(検証、評価)-Action(改善、見直し)を繰り返すことで、効率性や生産性を高めようという仕組みです。日本の会社に入ると、経営、生産、営業、人事など様々なところでPDCAサイクルが活用されていることが分かります。この日本人が得意な(?)PDCAサイクルが、資産運用にとってとても大切だという話をしたいと思います。
資産運用におけるPDCAサイクル
個人の資産運用プロセスをPDCAサイクルにあてはめると、以下のようになります。
Plan(計画)
運用目的、運用目標の設定
運用期間、許容リスクの設定
基本資産配分(基準となる資産配分の大枠)の決定-株式/債券/短期金融資産、米国/米国外、不動産、代替投資資産(オルタナティブ)など
資産内のセグメント配分の決定-大型株/中小型株、グロース株/バリュー株、先進国株/新興国株、国債/社債/新興国債券、課税債券/非課税債券など
Do(実行)
資産内の運用方法の決定-ファンド/個別銘柄、アクティブ運用/パッシブ運用など
投資銘柄・ファンド(Mutual Fund、ETF等)の選定・購入
課税タイプの異なる口座の活用(アセット・ロケーションの検討)
課税に配慮した投資銘柄・ファンド(Mutual Fund、ETF等)の売買
Check(検証、評価)
市場環境・見通しの確認
パフォーマンスのモニタリング
資産配分のモニタリング
投資銘柄・ファンド(Mutual Fund、ETF等)のモニタリング
用目的・目標に対する進捗度合い確認
Action(改善、見直し)
資産配分、投資銘柄・ファンド(Mutual Fund、ETF等)のリバランス
市場環境への適合
運用期間、許容リスクの見直し
基本資産配分の見直し
投資銘柄・ファンド(Mutual Fund、ETF等)の見直し・入れ替え
Plan(計画)のポイント
Planで大事なのは、どれぐらいリスクがとれる運用ができるのか見極めることと、それに見合った資産配分、運用方法を選択することです。「リスクをとる」というのは、全く(かほとんど)リスクがない資産を基準に考えます。例えば、CDやMMFといった短期金利性の資産は、短い期間ではほぼリスクがないと言っていいでしょう。これに対して、より長い満期の国債、さらに信用リスクのある社債・新興国債券、そして株式の順にリスクは高くなります。
どれぐらいリスクが取れるかを左右する要素としては、
運用期間-長ければ長いほど、リスクをとりやすい
運用資産に対する安定的な収入の大きさ―給与や年金など安定的な収入が見込め、それが割合として運用資産に対して大きい場合は、リスクをとりやすい
個人の選好-リスクをいとわないか、回避する傾向にあるか
などがあります。
個人の選好は計測するのが難しく、いくつかの質問をもとに個人のリスク許容度を割り出すツールを参考にするのもいいでしょう。端的には、どのぐらいの含み損があっても枕を高くして眠れるか(心配したり動揺しないか)が、個人のリスク許容度です。
資産運用のリスクに一番影響するのは、株式比率の高さです。資産運用のリスクは株式の比率が9割以上決めると言われます。そのほかのリスク要素には、外国資産の比率(為替リスクに影響)や投資適格未満の債券の比率もあります。
リスク許容度にあたりをつけたら、株式比率などどこでどのぐらいのリスクをとるかを検討・決定します。専門家が行うフィナンシャル・プランニングでは、資産配分全体でどのぐらいのリスクがあるか(損失が出る可能性があるか)を統計数値に基づいたシミュレーション等で確認しますが、個人で行う場合でも、投資対象の過去パフォーマンやチャートから損失の可能性や程度について把握しておきたいところです。
Do(実行)は効率性を考えて
実際に計画したことを効率よくポートフォリオに反映するのが、Do(実行)のステップです。運用のコストには、口座管理機関や運用会社に払う費用という面でのコストと、税金面でのコストがあります。運用目的・目標を効率よく達成するために、どちらも考慮すること大切です。
口座管理機関に明示的に払うコストは近年かなり低下し、取引手数料や口座維持手数料などがない口座を選ぶことも難しくなくなってきました。運用会社に払う費用(Mutual FundやETFのファンド内報酬)は、パッシブ運用であれば極限まで低下しています。そういう点で、個人でも低コストの資産運用が可能な時代になりました。
アクティブ運用を選ぶ場合は、追加的なコストに見合った付加価値(ニッチまたは運用が難しい資産へのアクセスや、運用パフォーマンスの向上期待)があるかどうかが見極めるポイントになります。
税金面では、課税タイプ別の口座の特徴をうまく利用することが重要です。フィナンシャル・プランニングでは、アセット・アロケーション(資産配分)に対する語呂合わせで、アセット・ロケーション(資産の場所)と言われます。どの課税タイプの口座で何に投資するかで、税金考慮後の正味運用成果が異なってきます。詳しくは「資産運用:課税区分が異なる口座を使い分けるポイントとは」をご覧ください。
おろそかになりがちなCheck(検証、評価)とAction(改善、見直し)
個人の資産運用では、CheckとActionがおろそかになりがちではないでしょうか。CheckとActionを怠ると、口座や保有銘柄が増え続けて全体管理ができないことにもなりかねません。
また、一度決めて実行した資産配分を放置しておくとどうなるでしょうか。基本資産配分からだんだん乖離していきます。特に株式のパフォーマンスが好調な場合には、徐々に株式の比率が上昇してき、知らず知らずのうちにリスクのとりすぎになってしまいます。これがリバランス(実際の資産配分を基準に戻す)が大切な理由です。自分では定期的なリバランスが難しい場合、ターゲット・デート・ファンドやロボアドバイザーを利用し、自動でリバランスしてくれる仕組みをとった方がいいかもしれません。
運用目的や目標に対して順調に進捗しているのかそうでないのかも、フィナンシャル・プランニング上、大切な確認事項です。ライフ・イベントやライフ・ステージに応じて運用目的やリスク許容度に変化が生じることもあります。そういった変化をPlanに取り入れ、軌道修正を図ることも大切なステップです。
なるべくシンプルに
全部考えるといろいろ大変と思われた方も多いと思います。人によっては、忙しい日常の中でそんなに時間が割けない、意欲/興味が湧かない方も多いと思います。そういう方は、なるべくシンプルな投資(少ない口座、少ないファンドに集約)を行い、手間がかからないようにしておくことをお勧めします。細かく考えて多くの口座、ファンドで投資しても、運用成果が向上するとは限りません。
情報収集に時間を割けない、知識面で不安という方は、コストがかかりますが、信頼できるフィナンシャル・プランナーに相談するのもいいでしょう。
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