「アメリカのソーシャル・セキュリティ税制:年金受給者への影響」でソーシャル・セキュリティは税制上他の所得に比べ優遇されていることを説明しました。実際のところ、所得がソーシャル・セキュリティのみであれば、課税所得が発生することはまずありません。
しかし、73歳*以降、Traditional 401(k)/IRAなどから毎年一定額以上を引き出す(結果として所得に算入)Required Minimum Distributions(RMD)が求められます(401(k)・IRA:RMDにご用心)。
今回の記事では、ソーシャル・セキュリティの所得にどのぐらいのRMDが加わると、所得課税が発生するのか見てみたいと思います。
*2033年以降は75歳
課税所得の計算方法
ここでは、二人とも65歳以上の夫婦合算申告における2024年の標準控除(Standard Deduction)32,300ドル、ならびにソーシャル・セキュリティとRMDしか所得がない場合を想定します。課税所得の計算過程は、以下の通りです。ステップ1および2の詳細については、「アメリカのソーシャル・セキュリティ税制:年金受給者への影響」をご覧ください。
ステップ1: Combined Incomeを計算する(ソーシャル・セキュリティの1/2+RMD)
ステップ2: 課税対象となるソーシャル・セキュリティ金額を計算する
ステップ3: Adjusted Gross Incomeを計算する(ステップ2の金額+RMD)
ステップ4: 課税所得(Taxable Income)を計算する
(ステップ3の金額-標準控除32,300ドル)
横にソーシャル・セキュリティ、縦にRMDを取り、その年の課税所得を計算すると以下の表になります。
ソーシャル・セキュリティが4万ドルまでの場合、2.5万ドルまでのRMDは課税所得を発生させません。同じように、ソーシャル・セキュリティが4.5万ドルから6万ドルまでは2万ドルまでのRMD、ソーシャル・セキュリティが6.5万ドルから8万ドルまでは1.5万ドルまでのRMDであれば、課税所得なしとなります。
課税所得を発生させないRMDやTraditional 401(k)/IRA口座残高
ある金額のソーシャル・セキュリティを受給する時に、いくらまでであれば課税所得を発生させないでしょうか。言い換えると、ソーシャル・セキュリティの水準ごとの非課税のRMD額は最大いくらでしょうか。これを計算すると、以下のグラフのようになります。
さらに、この非課税最大RMD額にIRSが定める引き出し期間(73歳)26.5年を掛け合わせると、73歳時点(厳密には73歳になる前年年末)での、課税所得を発生させない最大Traditional 401(k)/IRA口座残高となります(下のグラフ)。
まとめ
いかがでしょうか。意外と大きな金額がTraditional 401(k)/IRA口座にあっても、RMDによる所得課税を懸念する必要はないことが分かりました。その点では、RMD=課税発生ではないということです。
Traditional 401(k)/IRAからの引き出し計画については、生活費などの資金ニーズ、ソーシャル・セキュリティなど他の所得、所得課税の可能性、Roth Conversionを用いた節税機会等を踏まえ、総合的に検討する必要があります。
なお、2024年の標準控除をもとに計算していますので、標準控除金額や税制が変われば計算結果は異なりますので、ご注意ください。