ソーシャル・セキュリティ:早まった年金請求をしてしまったときには
ソーシャル・セキュリティの制度は複雑で、個々のケースは様々です。十分に情報を集めて最善の判断をすべきですが、知り合いや家族など周りの限られた情報をもとに、早まった年金請求をしてしまうことも珍しくありません。今回の記事では、そのような誤った年金請求をしてしまったと思った時に、どのような手段があるかまとめたいと思います。
年金請求の取り下げ(Withdrawing an Application)
2010年12月、ソーシャル・セキュリティ・アドミニストレーションは、年金請求の取り下げについて新しいルールを定めました。
このルールでは、もし年金請求を誤ったと思った時には、1年以内であれば当該請求を取り下げることができるというものです。受け取った給付金についてはすべて返還しなければなりませんが、利息はつきません。この取り下げ手続きをすることで、また好きなタイミングで年金請求ができるようになります。
取り下げがもうできないとき
受給期間が1年を超えてしまった時は、もう取り下げはできません。この状況でも、受給額を増やす方法が一つあります。Voluntary Suspensionです。
標準受給開始年齢以降であれば、年金支給の一時停止(Voluntary Suspension)をソーシャル・セキュリティ・アドミニストレーションに申し入れ、その後再開することができます。停止している間、配偶者年金・被扶養者年金も停止します。
支給停止期間中は、老齢年金額が年あたり8%の割合で増額します。70歳まで支給停止することができます。繰り下げ受給と同じです。
請求を焦る気持ち
最近興味深い論文*を目にしました。このリサーチによると、請求を焦る気持ちには心理的な理由があります。
一つ目は、長い間にわたってソーシャル・セキュリティ税を支払ってきた労働者にとっての、この年金は自分のものだという所有の意識(a sense of ownership)です。所有の意識が強いほど、早く請求をする傾向があったとのことです。
次に見られたのは、お金を取り逃したくないという、損失回避の傾向です。早世した場合に備えて早めにもらっておこうという気持ちが強いほど、年金請求が早くなりがちです。これは、月々の給付が62歳で$1,339、70歳で$2,395と示すより、生涯の給付額が62歳からで$353,500、70歳からで402,360と、大きい金額を見せた方が損失回避の心理が強く働き、早い年金請求をする人が増えたとのことです。
皆さんはどう感じるでしょうか。
*Shu and Payne, “Social Security Claiming Intentions: Psychological Ownership, Loss Aversion, and Information Displays,” July 2023
まとめ
2022年に年金請求をした人のうち、女性の25%、男性の23%は、62歳(老齢年金を請求できる最短の年齢)でした。この数字は2005年には女性54%、男性50%でしたので、この20年弱で62歳で請求する人は半減しました。その意味では、ソーシャル・セキュリティについての理解が進んだと言えるでしょう。
一旦年金請求を行った受給を開始すると、物価調整(COLA)を除けば、基本的に受給額は生涯変わりません。特に62歳で受給開始すると、最低の金額で生涯給付金額が固定されます。それが最善の選択という場合もありますが、残りの人生にわたる影響について理解不足、知識不足のために早まった判断をしてしまったと後悔することもありえます。
当社では、ソーシャル・セキュリティ・プランニングで、すでに受給開始された年金についても最善の選択だったかどうかを検証し、そうではない場合の次善の策を探すお手伝いを承っております。お気軽にお問い合わせください。