Hiroshi Goto
ソーシャル・セキュリティ:永住帰国後の日本での課税
Updated: Aug 12
今回の記事では、日本に永住帰国し、ソーシャル・セキュリティを受給する場合の課税ルールについて年金種類ごとに整理してみます。
年金種類によって異なる課税
日本でソーシャル・セキュリティの老齢年金、配偶者年金、被扶養者年金を受給する場合は、公的年金等の雑所得として、所得金額に応じて、所得税、住民税の対象となります。遺族年金は所得税、住民税は非課税です。
注意が必要なのは、遺族年金は所得税、住民税の対象ではない一方、相続税の対象になることです。以前、朝日新聞デジタル(有料記事)に「外国の遺族年金、平均余命分に相続税 妻「もらってもいないのに…」」「年200万円の海外遺族年金に、相続税700万円 受給者側「争う」」といった記事が報じられていました。この点について、詳しく見てみましょう。
相続税法上の遺族年金
一般に遺族年金は、相続税法上「契約に基づかない定期金に関する権利」にあたります。定期金に関する権利とは、年金のように一定期間、現金などの給付を受ける権利をいいます。
国民年金法、厚生年金保険法などに基づく遺族年金は、それぞれの法律で相続税について非課税財産とされていますが、外国の法令に基づくソーシャル・セキュリティは非課税財産とする定めはなく、したがってソーシャル・セキュリティ遺族年金の受給権は相続税の課税対象となります。
この受給権の評価方法は、次のいずれか多い金額とされています。
解約返戻金相当額
定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には、当該一時金相当額
予定利率、平均余命(厚生労働省の完全生命表)を基に算出した年金原価
ソーシャル・セキュリティ遺族年金は、解約返戻金や一時金相当額はありませんので、3.の年金原価による評価を行うことになります。
年金原価算出における論点
年金原価を算出する際に、以下の論点があるように思います。
まず予定利率ですが、ソーシャル・セキュリティは賦課方式なので、積立方式の企業年金基金や個人年金と違い、制度設計上の予定利率はありません。代わりになるものとしては、ソーシャル・セキュリティ積立金の評議会が発表している財政収支予測に関する年次レポートの中の、経済指標の長期予測があります。
積立金は米国債で運用されています。年金原価の算出に用いるべきなのは、現在の利率や過去実績ではなく、将来にわたる利率です。その点で、この長期予測は年金原価の計算に用いるのに相応しいと言えます。
また、ソーシャル・セキュリティの給付額は物価調整が自動で行われる仕組みなので、物価連動債の価格評価と同じく、年金原価計算(現在価値評価)は名目金利ではなく実質金利でなされるべきです。
ちなみに、2024年レポートでは、中間シナリオで実質利率2.3%と予測されています。
もう一つの論点は、ソーシャル・セキュリティの給付金のうち、どの部分を相続により取得したとみなすかです。例えば、夫が老齢年金月額$2,000、妻が配偶者年金月額$1,000受給していたとしましょう。夫が亡くなった場合、妻は(夫が受給していた)$2,000を受給します。制度的には配偶者年金が支給停止となり、遺族年金を受給する仕組みですが、経済効果を考えると、相続により取得したのは$2,000ではなく、それまで受給していた配偶者年金との追加差額$1,000が妥当に思います。
夫が老齢年金月額$2,000、妻も(自身の所得履歴に基づく)老齢年金月額$1,500受給していた場合はより明確です。夫が亡くなった場合、制度的に妻は自身の老齢年金$1,500+夫の遺族年金$500=合計$2,000を受給する仕組みなので、$500を相続により取得した財産として年金原価の算定ベースにすべきでしょう。
そもそも日本の相続税法が外国の法令に基づく年金制度、特にソーシャル・セキュリティを想定しているわけではないので、法律に沿って解釈していくと上記のような判然としない点が残ってしまいます。日本の税務の詳細は、専門の税理士や税務署にご相談ください。
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