「ソーシャル・セキュリティ:家族が受け取れる年金」で、配偶者年金(Spousal Benefits)について触れました。今回の記事では、配偶者年金を請求するにあたっての注意点を指摘したいと思います。

所得実績のある配偶者が老齢年金を受給開始していることが条件
配偶者年金は、一方の配偶者の所得実績に基づいて、もう一方の配偶者が受け取る給付金のことです。婚姻中の場合は1年、離婚している場合は10年の婚姻期間が必要です。よく見落としがちですが、配偶者年金を受け取れるのは、所得実績のある配偶者が老齢年金(Retirement Benefits)をすでに受給開始している場合に限られます。
例えば、哲也さんは所得実績があり、妻の裕子さんは所得実績がなかったとします。二人は同い年です。妻の裕子さんは、標準受給開始年齢(FRA)で哲也さんのPrimary Insurance Amount(PIA)の50%を配偶者年金として受給する資格があります。しかし、その時点で哲也さんが受給を開始していなければ、裕子さんは配偶者年金をもらえません。哲也さんが70歳まで受給を繰り下げることにした場合、裕子さんの受給開始もその時点になります。下表のように、支給率は年金を請求する年齢で決まり、生涯適用されます。配偶者年金は標準受給開始年齢(FRA)で満額かつ最大なので、それ以上遅らせても哲也さんの老齢年金のように増額はありません(老齢年金は70歳まで繰り下げることができ、1年あたり8%増額します)。

また、裕子さんが62歳まで繰り上げ受給したいと思っても、哲也さんが受給していなければ受給開始できません。この問題は、哲也さんと裕子さんが同い年の場合よりも、裕子さんが年上の場合により顕在化するでしょう。哲也さんが年上の場合は、それほど問題にならないかもしれません。
配偶者年金と自分の老齢年金を別々に請求することはできない
配偶者の所得実績による配偶者年金の受給資格と、自分の所得実績による老齢年金の受給資格があった場合、以前は低い方の年金を繰り上げ受給して、あとで高い方の年金を満額(以上)でもらえるようになった時点で請求する(低い方から高い方に支給額が切り替わる)というテクニックが可能でした。それにより、生涯受給額が大きくなります。これは制度の抜け穴として認識され、2016年以降はできなくなりました。
具体的には、老齢年金と配偶者年金の両方が受給開始できる場合(Duel Entitlement)、年金を請求すると両方を請求したことになります。これをDeemed Filingと言います。結果として高い方の年金額が支給されます。
(Deemed Filingは遺族年金には適用されません。したがって、遺族年金と老齢年金を別の時期に請求することは可能です。)
例えば、徹さん67歳、陽子さん62歳で、徹さんのPIAが2,400ドル、陽子さんも自身の所得実績によるPIAがあり、800ドルだったとします(金額はすべて月額)。陽子さんの67歳(FRA)の配偶者年金受給額は、徹さんのPIAの50%、1,200ドルです(厳密には、自身の老齢年金800ドルに配偶者年金400ドルが上乗せされ、1,200ドルの合計支給額となります)。
徹さんが67歳(FRA)で受給開始したとします。すると、陽子さん(62歳)は自身の老齢年金、配偶者年金とも受給開始できる状態です。ここで低い方の老齢年金だけを先に受給して、高い方の配偶者年金を温存するはできません。62歳で請求すると両方を請求したことになります。
この場合、老齢年金800ドル×70%*=560ドル、配偶者年金の上乗せ分(1,200ドル-800ドル)×65%*=885ドルの合計、885ドルが支給されます。
*62歳での支給率
夫婦の受給開始年齢による受給額の違い
配偶者年金は所得実績のある配偶者が老齢年金をすでに受給開始していることが条件ということに注意して、様々な受給開始年齢による夫婦の受給額の違いを見てみましょう。
同い年の哲也さん、裕子さんの例に戻ります。いま二人はともに62歳です。それぞれ自分の所得実績による老齢年金について、哲也さんのPIAが3,000ドル、裕子さんのPIAが1,000ドルです。
二人とも62歳で受給開始した場合、哲也さん老齢年金2,100ドル(PIAの70%)、裕子さん年金1,025ドル**、夫婦合計は3,125ドルです。
**老齢年金700ドル(PIAの70%)+配偶者年金上乗せ分325ドル(500ドル×65%)
同じく二人とも67歳(FRA)で受給開始した場合、哲也さん老齢年金3,000ドル(PIAの100%)、裕子さん年金1,500ドル(老齢年金1,000ドル+配偶者年金上乗せ分500ドル=哲也さんPIAの50%)で合計4,500ドルです。
裕子さん62歳、哲也さん67歳で受給開始することもできます。裕子さんは、哲也さんが受給開始するまで配偶者年金は受給可能ではないので、それまでは自身の老齢年金700ドル(PIAの70%)を受け取ります。哲也さんが67歳で受給開始すると、裕子さんは配偶者年金上乗せ分500ドルを追加され、計1,200ドルになります。したがって、夫婦の合計は4,200ドルになります。
さらに、哲也さんの受給を70歳、裕子さんを67歳まで繰り下げた場合、どうなるでしょうか。裕子さんは、自身の老齢年金1,000ドルを、哲也さんが70歳で受給開始するまで受け取ります。そして、哲也さんが70歳で受給開始した際に、裕子さんも自身の老齢年金に配偶者年金上乗せ分500ドルが追加されます。この場合、哲也さん老齢年金$3,720(PIAの124%)、裕子さん年金1,500ドル(齢年金1,000ドル+配偶者年金上乗せ分500ドル=哲也さんPIAの50%)で合計5,220ドルです。
これを表にすると、以下になります(金額はすべて月額)。

上表の4つの請求年齢ケースについて、哲也さん裕子さん夫婦の年齢別受給額累計を下のグラフにしました。
77歳までは、「二人とも62歳」で請求したケースが累計額が最も多いです。78歳から83歳では、「二人とも67歳」(標準受給開始年齢)のケース、84歳以上では「哲也さん70歳、裕子さん67歳」のケースが最も多くなります。「哲也さん67歳、裕子さん62歳」で請求したケースの累計額が最も多くなった歳はありませんでした。

なお、哲也さんの受給を繰り下げすることは、哲也さんが先に他界した場合の裕子さんの遺族年金を高める効果があることを補足しておきます(ソーシャル・セキュリティ:家族が受け取れる年金)。