US Frontlineコラム:ソーシャル・セキュリティの基本① 受給資格と老齢年金額
Updated: Apr 30
(この記事は、2024/4/16付け同タイトルのUS Frontlineコラムの転載です。)
これから数回に分けて、アメリカにおけるリタイア生活の主たる収入源、ソーシャル・セキュリティについて解説していこうと思います。
受給資格
ソーシャル・セキュリティの受給資格を得るためには、所得に対してソーシャル・セキュリティ税(被雇用者の場合12.4%を労使折半、自営業の場合は12.4%全額)を支払い、通常は最低40クレジットを取得する必要があります。1年間に獲得できるクレジットは最大で4クレジットです。2024年は、1クレジットに1,730ドルの所得が必要で、所得が6,920ドル以上で4クレジット取得になります。したがって、40クレジットを取得するには10年以上かかります。
アメリカと日本の間には、2005年10月に施行された日米社会保障協定があります。この協定は、両国の国民が相手国で働く場合に、年金加入期間の通算や二重加入の防止といった調整をするものです。この協定により、日米通算で40クレジット以上(日本の3カ月の年金加入期間をアメリカの1クレジットと同等として換算)があれば、ソーシャル・セキュリティの受給資格を得られます。ただし、加入期間を通算した場合でも、ソーシャル・セキュリティのクレジットが最低6クレジットあることが条件になっています。
老齢年金額の計算方法
様々なソーシャル・セキュリティ給付の算定基礎になる数値に、PIA(Primary Insurance Amount)があります。老齢年金の場合、個々の受給者が標準受給開始年齢(Full Retirement Age:1960年以降生まれは67歳)で毎月受け取ることができる金額を表します。PIAが高いほど、受給者はより多くの給付金を受け取ることができます。
PIAは、個々の労働者の所得履歴に基づいて計算されます。以下は、PIAの計算方法の要点です。
過去の所得に賃金伸び率を反映
まず過去の所得をその年からPIA算定時点までの全国平均賃金の伸び率(Average Wage Index)をかけて、賃金伸び率反映後の現在価値に合わせます。そのままですと、物価の違いにより、過去の所得が小さくなってしまうからです。
35年間の月次平均所得
所得履歴の中で受給者が最も高い所得を得た35年分を合算し、420(35年×12か月)で割って月次所得の平均(Average Indexed Monthly Earnings、AIME)を算出します。なお、所得履歴が35年に満たない期間は所得ゼロとして扱います。
PIAの計算
月次所得の平均(AIME)のうち、$1,174以下の部分の90%、$1,174超$7,078以下の部分の32%、$7,078超の15%を足し合わせます($1,174、$7,078は2024年の基準値)。これがPIAとなります。
たとえば、AIMEが$7,500である場合、下のグラフのようにPIAは$3,009と計算されます。
なお、PIAは受給資格が生じた年(老齢年金の場合は62歳)に計算され、その後は、受給開始しているかどうかにかかわらず、CPI-W指数に基づいて毎年物価が上がった分、PIAが増やされます。
ソーシャル・セキュリティを増やすには
ソーシャル・セキュリティを増やすには、もちろんできるだけ長く、できるだけ高い所得を得ると良いわけですが、PIA計算の仕組みから、その増え方について次のことが言えます。
月次所得の平均(AIME)にかけ合わせる率が、90%($1,174以下の部分)、32%($1,174超$7,078以下の部分)、15%($7,078超)と、段々下がっていきます。したがって、AIMEが低い時にPIAの増え方が大きく、AIMEが高くなるにつれてPIAの増え方が緩やかになります。これは低所得者に手厚い仕組みですが、キャリアの途中でアメリカに来てソーシャル・セキュリティに加入し、AIMEが低い人にとっても、有利な仕組みと言えます。
月次所得の平均(AIME)を算出する際の35年間で、所得歴がない年はゼロとして計算されます。つまり、所得歴が35年に満たない場合は、1年でも多く働くことによりPIAを高める効果が期待できるということです。35年を超える所得歴の場合、最も所得が高い35年しかAIMEに考慮されませんので、AIMEを上げるには35番目の所得を上回る所得を獲得しなければなりません。
ちなみに、2024年の平均(月額。Social Security Administrationによる推計)をご紹介すると、老齢年金支給額は$1,903、夫婦の受給額合計は$3,033です。
以上、PIA(標準受給開始年齢で受け取ることができる老齢年金額)について、解説しました。次回のコラムでは、老齢年金の標準受給開始年齢と繰り上げ/繰り下げ受給、家族が受け取れる年金についてまとめたいと思います。